2019/06/10 うつせみ

動物は、信号そのものではなくて、信号のコントラストを認識の対象としています。

この信号のコントラストは、我々の脳内部では、形容詞や価値観の原型となっています。
ここでは、この3者の関係を順次述べていきます。

8.9 認識の対象と信号のコントラスト

動物は、信号そのものではなくて、信号のコントラストを認識の対象としています。

我々は、視覚対象からの信号を認識の対象にしていると思っています。例えは、下図の綺麗な花の場合、花からの信号を目で捉えて、花を認識していると思っています。そのような先入観に支配されています。

認識の先入観
認識の先入観
我々は、綺麗な花からの信号を認識していると思い込んでいます。

しかし、実際には、信号そのものではなくて、信号のコントラストを認識の対象にしています。

たとえば、下図の影絵の場合、影絵自体からは、信号はやってきていません。でも、認識することができます。
影絵は、真っ黒なので、光を出していません。逆に、背景の光を、遮断して影絵を作っています。我々は、背景の明るさと、影絵の暗さのコントラストを認識して、それが、『花』の影絵だと理解しています。

信号そのものを認識の対象にしているなら、信号を発していない影絵は、認識できない筈です。でも、現実は、認識出来ています。コントラストを認識の対象としているからです。

影絵の認識
影絵の認識
影絵自体は、真っ黒なので、光信号は発していません。
背景の明るさと、影絵の暗さのコントラストが認識の対象になっています。

このような認識の対象になっている信号のコントラストには、大きく分けて2種類あります。空間的コントラストと時間的コントラストです。

  1. 空間的コントラスト
  2. 時間的コントラスト

感覚細胞は、一般に空間的に配置されています。例えば、眼の網膜は、沢山の視覚細胞の集まりによって構成されています。昆虫の複眼も同様です。これらの隣り合った視覚細胞の信号強度を比較することによって、そこに発生している信号の空間的コントラストを検出しています。

また、一個の感覚細胞に注目した場合、今のこの瞬間と、直前の状態を比較することによって、信号強度が強くなっているか、弱くなっているか、変らないかが、検出可能です。即ち、信号の時間的コントラストが検出可能です。このような時間的コントラストも動体視力などで重要な役割を演じています。

8.9.1 信号の空間的コントラスト

複数の視覚細胞の空間配置よって生じるコントラストです。

我々人間の眼は、明暗のコントラストによって、図形を認識しています。色のコントラストだけでは、図形の認識は困難です。

下図のような A,B,C,D の4つのパタンで、夫々、認識の仕方が異なっています。なお、図はイカの絵です。形は、みな同じです。イカの黄色も、A,C,Dとも同じ色(ffff00ff)です。

コントラストと認識の対象
コントラストと認識の対象
動物は、信号そのものではなくて、
信号のコントラストを認識の対象にしています。
A:通常の認識のパタンです。
B:影絵の例です。

人間の図形認識は、明暗のコントラストに頼っています。
C:色のコントラストだけでは、図形の識別は困難です。
D:黒い線で縁取りして、明暗のコントラストを強調し、図形の認識を容易にしています。

Aのパタンは、通常の認識行為で想定されているパタンです。
暗い背景を背に明るく輝く認識の対象物(イカ)が存在しているパタンです。このパタンでは、対象物(イカ)から、光信号が発せられています。逆に、背景は暗いので、背景自体は、光信号を発していません。
対象物からの信号を認識していると思い込んでいるパタンです。

認識の先入観
認識の先入観
通常、想定している認識のパタンです。
我々は対象物からの信号を認識の対象にしていると思い込んでいます。

Bのパタンは、影絵の例です。Aのパタンと逆です。
対象物(イカ)は、黒色なので、そこからは、光信号が発せられていません。もし、対象物からの信号が認識の対象になっているなら、認識できない筈です。信号が来ていないから。
でも、我々は認識できます。信号そのものではなくて、信号のコントラストを認識の対象としているからです。背景の明るさと、対象物の暗さのコントラストを認識の対象としている為です。

影絵の認識
影絵の認識
Aの逆パタンです。影絵の場合です。
背景の光を遮断することによって、逆に、認識の対象を作り出しています。

逆に、影絵に豆電球を取り付けて、背景と同じ強さで光らせたら、下図のように、コントラストが消失して認識し辛くなります。イカは、光信号を発しているので、信号そのものが認識の対象になっているなら、認識し易くなる筈ですが、結果は逆です。
まだ、豆電球の数が少ないので、何とか認識出来ますが、もっと増やすと、更に、認識し辛くなります。
その最終形が、下記のCのパタンです。体全体を均一に光らせた例です。

影絵に豆電球を取り付けた例
影絵に豆電球を取り付けた例
影絵に豆電球を取り付けて光らせた例です。

もし、信号そのものを認識の対象にしているなら、対象は光信号を発しているので、認識し易くなる筈です。でも、現実は、コントラストが減少して認識し辛くなります。

Cのパタンは、色のコントラストだけが生じている場合の例です。
我々は、明暗のコントラストで図形を認識しています。色のコントラストだけでは、認識が困難です。この為、黄色い対象物と、白い背景では、明暗のコントラストがほとんど生じず、形の認識が極めて困難となります。Bと同じ図形なのですが、足の微妙な形など、ほとんど分かりません。

色のコントラスト
色のコントラスト
色のコントラストだけでは、図形の認識は困難です。
イカの足先などの微妙な形は、ほとんど認識できません。
注)全ての図形の黄色は同じ色です。コントラストの加減で、違って見えますが。
我々の視覚は、明暗のコントラストで図形を認識しています。色のコントラストでは、困難です。

Dのパタンは、Cの図形を黒線で縁取りした例です。
黒で縁取りすると、明暗のコントラストがハッキリしますので、図形の認識が容易になります。イカの足先まで、クッキリと認識できます。色のコントラストも、より際立っているように感じます。

このテクニックは、ポスターやテレビ画面に文字を表示する場合に使います。ポスターなどでは、色々な色を使って、文字を描きますが、色だけでは、非常に読み辛くなります。そこで、文字の輪郭を、黒線や白線で縁取って、読み易くしています。明暗のコントラストを生じさせ、図形の認識を容易にしています。

図形認識と縁取り
図形認識と縁取り
黒い縁取りをして、明暗のコントラストを強調したパタンです。
明暗のコントラストが生じているので、細かい図形の認識が容易です。
イカの足先まで、明瞭に認識できます。

参考までに、逆パタン、白い縁取りをした例も掲載します。
下図、左側のように、イカも背景も暗い場合、やはり同様に明暗のコントラストが低くなりますので、形が不鮮明になります。この場合は、右側のように、白い縁取りをすると、明暗のコントラストが強調されて、形の認識が容易になります。
なお、イカは先ほどのBパタンと同じ黒です。背景の濃い紫は、Aパタンの背景と同じ色です。「イカ」の文字は、ポスターやテレビ画面を想定した例です。白い縁取りをすると、格段に読み易くなります。

参考)白い縁取りの例
白い縁取りの例
参考までに、白い縁取りをした例も掲載します。
イカも背景も暗い場合、右のように白い縁取りをすると、明暗のコントラストが強調されて、図形の認識が容易になります。文字も読み易くなります。
当たり前ですね。



XOR(排他的論理和)

このような情報処理を、数学の世界では、XOR(排他的論理和)と呼んでいます。

この排他的論理和(XOR)を、色で表現したのが、下図です。
同じ色同士が隣り合っている場合は、コントラストが生じません。二つの領域は、合体して、一つの領域に見えます。従って、真理値は、偽(0)です。
つまり、認識の対象になりません。

二つの異なった色が隣り合っている場合は、コントラストが生じます。夫々、異なった領域として識別されます。従って、真理値は、真(1)です。
つまり、認識の対象になります。

XOR(排他的論理和)

XOR(排他的論理和)
色を使ったコントラストの真理値表です。
信号がある状態を黄色(1)、信号がない状態を黒色(0)で表現しています。

異なった色同士だと、コントラストが発生します。真理値は、真(1) です。
同じ色同士だと、コントラストは発生しません。真理値は、偽(0)です。

8.9.2 深海生物の発光

ホタルイカなどの深海生物の中には、体全体が弱く光るものがいます。これは、自ら信号を発することによって、逆に背景に溶け込む為です。

深海といえども、太陽の光が僅かに届きます。そのような場所に棲んでいる生物の場合、敵が下から見上げた場合、丸見えになってしまいます。発光しなかった場合は、ちょうど、影絵と同じように、海面からの光を遮断してしまうので、シルエットが浮かび上がってしまいます。逆に目立ってしまいます。

シルエットが浮かび上がる
シルエット
海面からの光を遮断すると、逆にシルエットが浮かび上がって、目立ってしまいます。

自らも弱く発光すると、背景の空に溶け込むことが可能になります。

背景に溶け込む
背景に溶け込む
体全体を弱く光らせると、逆に背景に溶け込むことができます。
深海の光は弱いので、光るエネルギーは少なくて済みます。

ホタルイカは、自ら積極的に発光することによって、逆に、背景ノイズに溶け込んでいます。信号そのものが認識の対象になっている訳ではないからです。信号のコントラストが認識の対象になっているからです。背景とのコントラストが生じていなければ、敵に見つかることもありません。影絵に豆電球を取付け、背景と同じ強さで光らせると、逆に、影絵は見えなくなってしまうことと、同じです。

表層近くにいる魚は、背中が黒っぽい色をしています。逆に、腹側は、白っぽい色をしています。背中が黒っぽいのは、上空から鳥に狙われたときに、背景の水底の暗い色に溶け込む為です。腹が白っぽいのは、下から狙われた時に、空の明るさに溶け込む為です。目的は、ホタルイカの場合と同じです。

鮎
背中は、水底の暗さに溶け込む為に、黒っぽい色をしています。
腹側は、空の明るさに溶け込む為に、白っぽい色をしています。

表層の魚は、深海生物と同じように、自ら光ることはしません。理屈上は、表層の魚も発光することによって、背景に溶け込むことは可能ですが、しかし、表層は明るくて、発光して溶け込む為には、膨大なエネルギーが必要になる為です。

よく観察すると、腹側は、白っぽいだけではありません。光を反射して、ミラーボールのように、キラキラ輝いてます。プール遊びの時に経験があると思いますが、水面を下から覗いたら、水面は、キラキラ輝いています。波によって、太陽光が乱反射される為です。魚の腹側も、白っぽいだけでなく、もっと積極的に、光を反射して、キラキラ輝いています。それは、上から水の中を覗いたときに観察できます。通常は、上から覗いても、魚がいるようには見えません。背中が黒っぽいので水底の暗さに溶け込んでいる為です。しかし、餌を取る為に、身を翻した瞬間に、キラッと光って、『そこに魚がいる。』事を、知ることが出来ます。

この場合も同様に、自ら積極的に信号を反射することによって、逆に背景に溶け込んでいます。信号そのものが認識の対象になっているのではなくて、信号のコントラストが認識の対象になっている為です。自ら、ミラーボールのように、キラキラ反射することによって、逆に水面の乱反射に溶け込んでいます。

野山を歩くと、枝を引っかけたり、落ち葉を踏み締めたりして、ゴソゴソと音がします。野生生物は、出来るだけ音を立てないように歩きますが、それでも、音は出ます。人間は、無神経なので、もの凄い騒音をたてて歩いています。
野山では、野ウサギによく遭遇します。自分が音を立てながら歩いていると、野ウサギも音を立てながら、直ぐ近くを移動しています。野ウサギの存在に気付いて、ピタッと足を止めると、その瞬間に、野ウサギも動きを止めて、ピタッと音がしなくなります。暫く沈黙が続いた後で、しびれを切らして、動き始めると、野ウサギも、安心したかのように、音を立てて動き始めます。

まるで、戦争映画を連想します。スターリングラードの映画の中で、スナイパーが、爆撃音や砲撃音に合わせて、狙撃していました。銃を撃つと、大きな音がして、自分の居場所が分かってしまいますが、砲撃音などの環境雑音に合わせると、それを誤魔化すことが可能になる為です。市街戦の場合は、音が、あちこちのビルの壁で反響しますから、残響時間が長くなって、より一層、狙撃地点の特定が困難となります。興味深いのは、野ウサギのテクニックと同じことです。

音を消すことができないなら、背景雑音に溶け込めです。

動体視力対策

野生動物たちは、動体視力対策にも、結構神経質です。

動くと、時間的コントラストが発生してしまうので、見つかり易くなってしまいます。だから、先ほどのウサギのように、無駄に動かないで、気配を消しています。動かなければ、保護色と相まって背景の模様にうまく溶け込むことができます。トラ柄のような奇抜な模様も、彼らが暮らしているブッシュや草原では、動かなければ、背景に溶け込んで、姿形の認識を困難にしています。

この気配の消し方に野生の緊張感を感じます。

8.9.3 信号の時間的コントラスト

現在の信号と、直近の過去の信号を比較することによって検出されるコントラストです。

信号のコントラストは、時間に対しても生じています。今、この瞬間の信号の強さと、直近の強さを比較することによって、強くなっているか、弱くなっているか、変わらないかが分かります。この信号の時間的コントラストも、認識の対象となっています。

この時間的コントラストは、音や薬物中毒などで、よく見られます。

コカインなどの薬物は、血中濃度そのものではなくて、血中濃度の変化が薬物特有の効果を生み出しているそうです。
南米のインディオのように、コカ茶や、コカの葉を口に含んで噛んで摂取している場合、効率よく薬物を摂取できないので、血中濃度の上昇も穏やかで、それ程、深刻な中毒症状も起きていません。
事実、フロイトの頃は、まだ、コカインの危険性が認識されておらず、一部でやっと疑われ始めた程度でした。現代のように、精製して、粉末を肺粘膜から摂取するようになると、急激な血中濃度の変化が起こって、深刻な中毒症状に見舞われるようになりました。人々は、より強い刺激を求めて、摂取量が増えてしまいました。

我々は、とかく、麻薬を悪者にして、それで自己満足に浸っています。「麻薬は悪魔だ。」と。言い訳は、いつも『他人のせい。
しかし、このような事故が起こってしまうのは、神経組織の働き方に問題がある為のようです。麻薬が脳内部の麻薬類似物質の代役を演じて、血中濃度の時間的コントラストが認識の対象となってしまうからのようです。より強い刺激(急激な時間的コントラストの変化)を求めて、薬物の摂取量が増えてしまうみたいです。その背景で加速させている原動力は、何らかの欲求不満です。

アルコールも、コカイン同様の危険性を孕んでいます。
現在、アルコールは、経口摂取、即ち、飲むことによって、胃腸から吸収されています。
元々、消化器官は、進化の歴史の中で、様々な異物を取り込んできた歴史があるので、頑丈に出来ています。アルコールなどの薬物に対しても、ある程度の耐性があります。量が過ぎると、吐き戻してしまいます。そこで、安全弁が働いて、薬物などの異物の摂取が止まります。もちろん、飲み過ぎて、体を壊したり、アルコール中毒になることはありますが、コカイン程は、深刻な問題を生じさせていません。

ところが、もし、胃腸以外から摂取した場合は、どうでしょうか。霧状にして、肺から摂取した場合、或いは、タンポンに含ませて、肛門粘膜から摂取した場合、かなり急激な血中濃度の変化が起こってしまいます。しかも、摂取量のコントロールも効きません。限界を超えて摂取してしまう可能性があります。
とても危険です。もし、飲酒以外の摂取方法が蔓延したら、コカイン同様の深刻な弊害が発生する可能性があります。

砂糖も、快楽と関連した薬物です。
アルコール同様、口から摂取してる分には、問題になることはないと思います。しかし、口以外からの画期的摂取方法が開発された場合は、やはり、コカイン程ではないにしろ、何らかの依存症を生じさせる危険性があります。信号の時間的コントラストが認識の対象となってしまうからです。
もし、心にストレスを抱えていると、欲求不満から逃げる為に、砂糖やアルコールなどの快楽物質の摂取量が増えてします危険性を孕んでいます。過食も同様です。

人間は、薬物に限らず、常に心地良さや快楽を求めています。その快楽に慣れると、物足りなくなって、さらに強い刺激を求めていきます。心にストレスを抱えていると、それから逃げる為に、さらに、強い刺激を求めといきます。摂取量が増えてしまいます。
それがエスカレートして、しまいには、享楽へと姿を変えます。享楽と快楽の区別が付かなくて、コカイン患者と、紙一重の世界に落ちます。

全ては、信号のコントラストが認識の対象となっている為です。

注)最近、カフェインパウダーが流行っています。カフェイン100%の粉末です。まだ、経口摂取が主流ですが、コカインやニコチン同様に、肺からの摂取も始まっています。嫌な予感がします。ストレスとコラボしたら、どうなることやら。

精製した薬物、或いは、経口摂取以外を目的とした薬物は、麻薬として、早めに対策を講じる必要性を感じます。摂取方法、つまり、薬物濃度の急激な変化が問題を引き起こすからです。(+、ストレス。)