6 論法上の欠陥
我々動物の神経組織の進化を、以上のように三段階に分けて述べてきました。
この論法は、人間の脳の構造の特殊性を直観的に理解するには有効でした。
しかし、この論法には、現実と合わない二つの欠陥があります。
そこで、ここではこれについて述べます。
6.1 第一の欠陥(本能)
第一の欠陥は、どのような下等動物の神経組織にも、多かれ少なかれ学習作用はあることです。
だから、
第一段階のモデルがそのまま純粋に当てはまるような動物は、この地球上には存在しないと思います。
ただ、このとき、一つだけ気になるのは、この神経細胞が持っている学習作用を、本当に学習作用と解釈していいかどうかは、疑問です。それは、全ての生物細胞が持っている環境への適応力だと解釈したほうが適切であるかもしれません。
現実の神経細胞は、様々な学習のメカニズムを持っております。
それらのメカニズムの中には、短期の記憶に関与したものもあれば、長期の記憶に関与したものもあります。その仕組みは、巧妙です。
しかし、これらの学習作用の原型になっているのは、全ての生物細胞が持っている環境への適応力であると考えられます。
つまり、生物細胞の環境への適応力が土台となって、神経細胞の学習作用が生まれてきたと考えられます。
だから、現実問題として、厳密な論理を展開した場合、神経細胞が持っている学習作用と、全ての生物細胞が持っている環境への適応力の間に、明確な境界線を引くことは、不可能になると思います。
ここでは、そのような厳密な思考は行わないで、もっと、大雑把に、昆虫たちをイメージして、話を進めました。