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5.8 まとめ


   意識器官は架空行動の為の制御システム系である。

   我々人間の脳には、二組の独立した制御システム系が存在しています。
   第一のシステム(第一システム)は、他の動物と共通のもので、この肉体の生存と行動を支えています。

   第二のシステム(第二システム)は、第一のシステムに対応して発生した疑似組織であって、その働きも疑似的なものです。すなわち、肉体の架空行動を制御しています。
   我々人間は、第一システムを使った現実の体験学習の代わりに、第二システムを使った架空の体験学習によって、新しい行動のためのプログラムを作り出すことができます。
   この架空の体験学習を、『考える行為』と呼んでいます。このようなシステムの二重性が、我々人間の精神構造の不可解さを作り出しているようです。


意識器官の生物進化上の意義とメリット

   この意識器官の生物進化の上での意義は、行動のためのプログラムが、システム内部の情報処理によって、一瞬にして作り出されるようになったことです。

新しい行動の為のプログラムを作り出す原理、原則  
行動様式 新しいプログラムを作り出す方法  制御速度 
 本能的行動  種のレベルの進化が必要  非常に遅い
 学習された行動  個体レベルでの体験学習で可能  そこそこ早い
 意識された行動  意識器官を使った架空の体験学習で可能  超高速

   最初、本能的行動の段階では、動物は適応のためのプログラムを、本能として生物進化の過程を通して作り出していました。だから、そのプログラムを変更しようとすれば、進化する必要がありました。すなわち、世代の交代と、地質学的時間が必要でした。

   次の学習された行動の段階では、これが個体のレベルで可能となりました。新しいプログラムの作成や、変更が、各個体の体験学習によって行なわれ、このために世代の交代も必要でなく、時間も短縮されました。
   また、同種の個体が、ひとつの種を維持しながら、それぞれ異なったプログラムを身につけることも可能となり、この為に、結果として、種自身の適応範囲も広くなりました。

   しかし、同時にこのために欠点も抱え込んでしまいました。
   まず第一の欠点は、体験学習自体、非常にリスクの大きな行為だということです。未知の状況に、体ひとつで飛び込んで行かなければならないので、運が悪ければ命という高い代償を支払わなければなりませんでした。
   第二の欠点は、第一の欠点ほど深刻ではないのですが、大量のエネルギーを消費することです。体を直接動かさなければならないので、エネルギーの消費が多く、また、その学習速度も体を動かす速度以下には短縮できませんでした。

   最後の意識された行動の段階では、この行動のためのプログラムが、神経組織内部のシミュレーション(意識器官を使った架空行動)によって、一瞬にして作り出せるようになりました。
   神経組織内部で情報をやりとりするだけなので、時間もかからず、エネルギーの消費も少なく、この為に、大量のプログラムが短時間で作り出せるようになりました。

   そして、さらに注目すべきことは、このシミュレーションのためのデータが、各個体間で伝達可能になったことです。われわれは、言葉やその他の方法によって、プログラムや知識を伝達しあうことが出来ます。
   この為に、時間と空間の壁を超えて、先人たちや遠く離れた人々の作り出したプログラムも、自分のものとする事が出来るようになりました。もはや自分は、自分だけではなくて、過去の人も取り込んでしまったのです。
   すなわち、そこに過去の多くの人々の経験から構成された『文化』というものを構築することが可能となりました。


   その戦略的価値は、計り知れません。
   事実、我々人類は、この地球上でいま異常繁殖しています。今までの生物の常識に反して、有りと有らゆる環境や地域にその生活の場を広げています。

   最初、行動のためのプログラムが、生物進化の過程を通して作り出されていたことを思うと、これは驚くべきことです。


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