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5.5 意識器官の生理学的仕組み


   意識器官の働きは、生理学的には、自己刺激の一種であると思われます。

   動物の脳には、報酬系、あるいは、罰系と呼ばれる組織があります。これが何を意味しているのか、あるいは、この呼び方が適切なものなのかどうかは分かりませんが、ただ、事実関係にのみ注目するなら、報酬系に電極を埋め込み、刺激を与えると、実際の報酬を与えたのと等価の効果を脳にもたらすことができます。また、罰系に電極を埋め込めば、逆に罰を与えたのと同じ効果を与えることができます。

   ラットの報酬系に電極を埋め込み、ラット自身がその電極のスイッチを押すことができるようにすると、彼は自分自身でそれを押し、報酬系に電気刺激を加えるようになります。
   水や餌といった現実の報酬の代わりに、自分で押すことによって、電気刺激という架空の報酬、架空の満足体験を求めるようになります。その回数は、多いときには、一時間に8000回以上にもなるそうです。

   意識器官の働きも、基本的にはこれと似ており、それ自身は、自己刺激の一種ではないかと考えられます。
   というのも、このラットの過程は、先ほど述べた我々人間の白日夢にふけり続ける過程とよく似ているからです。我々人間は、満たされないとき、よくその欲求不満を外部に向かって発散しないで、意識器官に向かって放出し、そこに空想の世界を作りだし、そこに閉じ込もって自己満足にふけり続けようとします。
   自らの意識感覚を、自らの架空世界に縛りつけ、そこから生み出される架空の満足体験によって自分の心を満たそうとしています。心の中に自分だけの世界を作り出して、その世界に浸り込み、現実から逃避している姿は、水も餌も求めず、ただひたすらスイッチを押し続けているラットの姿と、よく似ております。

   また、意識器官本来の役割は、架空の試行錯誤行為による新しいプログラムの作成です。
   すなわち、学習と非常に密接な関係にあります。だから、当然そこには成功と失敗が存在し、それに基づく報酬と罰の機構が働いていると思われます。
   もし、意識器官によって架空の行動が作り出され、その結果が報酬系や罰系にエネルギーを充当できるなら、現実の行動と同様に学習を成立させることが可能です。

   この意識器官が、脳内部のどこに位置しているのか、それを直接確定できるデータは、残念ながらまだ見あたりません。
   ただ、いくつかの状況証拠から、大脳前頭葉が重要な役割を担っているのではないかと考えられます。というのも、報酬系に関与した細胞群が前頭葉にも存在しており、そこを刺激しても同様に報酬効果が得られるからです。

   しかし、前頭葉自体は、意識器官の本体かどうかは半信半疑です。もともと大脳は情報の分析を行なう器官であって、分析された情報を統合し、自らの感情に基づいて意志決定を行なう器官ではないからです。

前頭葉は、一種の仮想外界であって、
鏡のように、疑似的環境を模した反射機構ではないかと思われます。
大脳は、中心溝を堺にして、対称的構造(注1)をしています。


   そこで、このような混乱した情報を整理するために、次の過程では、二種類の考察作業を行なってみます。
   最初の作業は、心理学的側面からのものです。
   二番目の作業は、数学的側面からのものです。
   しかし、この作業からは、なんらかの有効な結論を得ることはできませんし、また論理的に整合性のあるものでもありません。ただ単に、直面している問題点を整理するためだけのものです。


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注1)対照的構造
   数学的には、脳は環境の逆関数です。

   脳は環境と構成が逆転しています。
   右側の視覚情報は、大脳の左に投影されます。左側は、右に投影されます。左右が交差しています。同様に、視覚情報自体も、脳の後ろ側、後頭葉に投影されています。ワザワザ、配線が長くなっています。左右が反転しているだけでなく、前後も反転しているように見えます。

   この原因は、数学的には、脳は環境の逆関数である為と思われます。脳のように、ワイヤードロジックによって、制御システムを構成すると、その空間配置も逆転してしまう為のようです。
   脳自体が、環境の反射機構であり、鏡写しの関係にあります。

   同様に、脳の反射機構である意識器官(つまり、仮想外界)は、中心溝を堺にして、鏡写しの対称的構造をしているように見えます。

   脳に見られる対称性と反転は、基本的には、『脳は環境の逆関数』に原因があるようです。