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2.4  脳と環境 



   脳は、環境の逆関数です。

   この脳の関与している現象を、もう少し詳しく考察します。同じ生命現象として、背景にある基本的思考形式は、生物進化と、ほとんど同じです。相互作用と、自己保存系によって組み立てられます。

   我々人間にとって、脳、および 脳の属する神経組織は、この肉体の生存と行動をささえるための制御システム系であって、それ以外の役割は持っておりません。それは、神様の宿っている場所でもなければ、心や魂の存在する場所でもありません。機械に例えるなら、ただの単なる半導体の集まりにすぎません。

   このシステムは、次のような因果関係から構成されます。

   (1)外部感覚器官によって、環境の状態が知覚される。即ち、環境から生物への働きかけが起こる。

   環境 → 生物

   (2)知覚された情報は、脳へ流入し、そこで情報処理が行われる。

   外部感覚器官 → 脳

   (3)処理された結果は、出力信号として、脳より流出する。

   脳 → 運動器官

   (4)脳から流出した信号は、端末の運動器官に伝わり、そこで運動が起こる。
    そして、その運動の結果、生物の環境への働きかけが起こる。

   生物 → 環境

   (5)生物の環境への働きかけによって、生物と環境との相対関係が変化する。
        この結果、環境から生物への働きかけも変化し、脳へ流入する信号も変化する。
        つまり、この(5)の過程は、(1)の過程の原因となる。

   この因果関係において、重要な事は、脳と環境の間の相互作用がフィードバックしていることです。つまり、脳からの出力信号が環境への入力信号となり、環境からの出力信号が脳への入力信号となっています。この関係をひとつの図にまとめると、次のようになります。



   なお、外部感覚器官と運動器官は、脳にとっては、外界(環境)の一部です。脳からの出力信号の先にあるものと、入力信号の先にある世界が、脳にとっての環境です。即ち、外部感覚器官と運動期間を含めた全体が、環境を構成しています。そこで、この複合体自体を環境だとみなせは、この関係はもっと簡単な図となります。

     図 脳の現象的構造 (注3)

   この脳と環境との因果関係を、数学的手法を使って記述してみます。この作業のために必要な数学的思考形式は、彼らが『写像』、あるいは『関数』と呼んでいる概念です。

   脳への入力信号を 、出力信号を とするなら、脳は、形式的には、信号xの信号yへの変換器、即ち、関数として表現できます。この関数をBと記すなら、次のように表されます。

    y=B(x)   ・・・・・・・ 脳

   だから、逆に環境は、信号yの信号xへの変換器、即ち、関数Eと表現できます。

    x=E(y)   ・・・・・・・ 環境

   脳にとって、環境は、信号yの信号xへの変換器にすぎません。だから、制御においては、環境の真の物理的形状を知る必要はなく、ただ単に関数としての性質が把握されていれば、それで充分です。

   我々人間の認識も、これと同じです。我々は、環境の真の物理的形状を理解しているのではなくて、環境のこの様な関数としての性質を理解しているにすぎません。目の前のコップを手でつかめるのも、そこにコップが実在しているからではなくて、我々の神経組織が、最適な制御システムを構成しているからです。

   脳は環境の逆関数

   なお、詳しい説明は省略しますが、脳が最適な制御システムを構成するための条件は、数学的には、次のように表現されます。脳は環境の逆関数です。

   環境が変化したら脳への入力信号xも変化します。脳への入力信号が変化したら、脳は最適な存在状態を乱れます。そこで、脳は、環境への出力信号yを変化させて、入力信号xを安定させようとします。
   つまり、脳への入力信号xが、常に一定になるように、脳は環境変化に合わせて、出力信号yを変化させる必要があります。この関係は、ちょうど、脳が環境の逆関数になっています。

   最適な温度帯に留まり続ける動物の場合、周りの温度が変化したら、移動して、最適な温度の環境を見つけて、移動しようとします。常に、温度センサーが、最適な値になるように、行動します。入力信号を、自分にとって都合のいい値になるように、出力信号を調整して、最適な場所に移ろうとします。その結果、この動物は、最適な温度帯に留まり続けることになります。常に、入力値は、最適な一定値になるように、行動が起こります。

   哲学者の方々や、人工知能の問題を扱っている工学者の方々は、知覚とか、認識とかを問題とされますが、しかし、現象全体からみれば、これは、さほど重要な問題ではありません。些細な問題です。

   我々人間のように物事を認識していようが、或は、何を考えて生きているのか解らない小さな虫たちであろうが、その認識の程度とは無関係に、逆関数になっていれば、それで充分です。逆関数にさえなっていれば、最適な制御システムが構成されますから、動物は生きていくことが可能になります。

   当たり前のことですが、生物は、哲学者が自己満足に浸る為に、存在している訳ではありません。研究者が、研究の対象にする為に存在している訳でもありません。学問的定説を、順守している訳でもありません。

   自分が生きる為に、自分の都合に合わせて存在しているだけです。

   だから、哲学者の自己満足や、学問的シキタリに拘る必要はありません。人間の認識の形式に、拘る必要はありません。
   『生きる。』という目的に拘って、その中で、理解する必要があります。

   脳は脳だけで意味を持つのではありません。現象全体の因果関係の中で、はじめて意味を持ちます。それは、生きる為の手段です。生きるという行為との関連で、始めて意味をもちます。


脳の左右の逆転について

   この脳が環境の逆関数になっていることは、現実の世界では、我々動物の脳の左右が逆転していることと非常に密接な関係にあるようです。

   動物の脳のように、ワイヤードロジックによって制御システムを構成した場合、その空間配置も(現実とは)逆転してしまう為であると思われます。
   へびの熱を感知するピット器官は、皮膚の変化したものですが、情報はやはり目と同じように、脳の反対側に投影されます。右側の空間の情報は、脳の左側に投影されます。
   左右だけでなく、前後も反転しているように見えます。眼からの情報は、どういう訳か、頭の後ろ側に投影されます。眼の位置と反対側に投影されています。配線が長くなってたいへんだと思うのですが、配線コストよりも、空間の反転の方が優先されています。

   このことは、今西錦司氏の『状況の主体化』の概念(注)を導入することによって、ある程度は説明できるのですが、しかし、残念ながら、そのことを数学的に厳密に証明することには、まだ、成功していません。時間と空間の相対性を説明するのが、やっとの段階です。

   もし、これに成功したら、その時は、脳やDNAを支配している制御原理を、数学的にきちんと記述可能になるでしょう。脳とDNAは、物理的には全く異なった現象ですが、そこを支配している制御原理は、同じ生命現象として、同じに見えます。

   この生物型制御原理は、生命現象や哲学上の認識論、工学のロボットを記述していくうえで必須なので、また別の機会に詳しく述べます。現代の工学者が考えいる制御の考え方とは、発想が大きく異なっています。

   これからの思考作業では、この脳と環境の間に起こっている現象、即ち作用のフィードバック過程に注目します。この作用のフィードバック過程が、自己を保存するための制御システム系を構成しており、脳は、このシステムを構成するための一部品に過ぎないと考えました。

   物体としての脳そのものよりも、この制御システムの構造全体を問題としていきます。この様に、脳と環境を不可分なもの、即ち、一体のシステムとして捉える発想の利点は、この作業の最後の段階で理解していただけます。


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注)生命現象を記述する為に必要になる制御理論について、より詳しい考察をここで行っています。

注)ワイヤードロジックと、プログラムロジック

制御システムを設計する物理的な方法は、大きく分けて、2通りあります。

そのひとつは、実際に、トランジスタなどの制御素子を、配線で繋げて、論理回路を構成する方法です。昔は、この方法が主流でした。
現代では、信じられないかもしれませんが、タイマーとリレーだけで構成された制御盤を、実際に見たことがあります。真空管や、トランジスタが使われていないけど、それでも、目的を達成していました。

最近は、パソコン等の機器が安くなったので、プログラムを組んで制御システムを作成しています。遥かに複雑な制御が、安価に実現できるようになりました。

脳の場合は、神経細胞間を、配線(軸索等)で繋いで、制御システムを実現しています。即ち、配線によって、論理回路を構成しています。ワイヤードロジックの手法が使わています。

背後にある制御原理は、現代の制御工学とは、大きく異なっています。
神経細胞は、トランジスタなどの制御素子と言うよりは、寧ろ、ひとつの小さなコンピュータです。
小さなコンピュータが、大量に、物理的な配線によって連結されて、並行処理が行われています。