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5.2 プラグマティズム


   プラグマティズムの創始者、チャールズ・パースが、この第二システムの働きに関して、興味深いことを述べています。

   彼は次のように述べています。

   思考のはたらきは、疑念という刺激によって生じ、信念がえられちときに停止するので、信念を作ることが、思考の唯一の機能である。 

   また、これと関連して次のようなことも述べています。

   わたしたちが信念をもつとき、即座に行動にうつるわけではないが、機会があり次第、特定の仕方で行動にうつる状態におかれる。
   他方、疑念をもつときは、こうした外的な行動にあらわれる効果はまったくなく、疑念がなくなるまで探求をつづけるように仕向けられる。 

   我々動物の行動は、かならず神経組織内部のプムグラムに基づいて起こります。だから、動物は、プログラムにない行動はとれません。それが本能に依存していれば依存しているほど、その行動はデタラメなものではなくて、型にはまったものになります。
   動物達も、野山を自由に駆け回っているのではなくて、ケモノ道にしたがって行動しています。
   人間の場合も、行動はプログラムに従って起こります。だから、ある状況に直面した場合に、その状況に対応するためのプログラムを持っていれば、我々は疑うこともなく、不安を感じることもなく、すぐに行動に移ることができます。また、心の準備も、そのような状態におかれます。
   この状態を、パースは、信念をもった状態と呼んでいます。

   ところが、その状況に対応するためのプログラムをもっていない場合には、即ち、未知の状況に直面した場合には、我々は不安になって、自分のもっているプログラム(あるいは、諸々の価値観)に疑いを向けはじめます。

「はたして今までの方法でうまくいくのだろうか。」と。

「もっと別のいい方法はないのだろうか。自分の信念は、本当に正しいのだろうか。」と。・・・・・・・・

「どうすればいいんだ!・・どうすればいいんだ、考えろ!」・・・・・

「こうすれば、どうだろう。いや、それではダメだ。失敗することは、目に見えている。」・・・・・・

「もっと他にないのか。何かあるはずだ、考えろ!」・・・・・・・・・・・・・・・・・・せっぱ詰まれば詰まるほど、不安は高まり、頭は、パニック寸前になります。頭の中が混乱して、様々な考え方が、嵐の前の雲のように足早に通り過ぎていきます。
そして、それはしだいに恐怖感へと変わっていきます。

そして、その一歩手前で・・・・「そうだ!こうすればいいんだ。これできっとうまくいく。今度は間違いない。よし、やるぞ!」・・・と。 

   この最期の状態を、パースは疑念をもった状態と呼び、疑念をもった状態から信念をもった状態への移行過程を、思考と呼んでいます。

   次の彼の言葉は、その意味を最も明確に伝えています。

   行動の習慣を形成することこそ思考の機能の全てであり、思考とはかかわりがあってもこの目的にそぐわないものは、思考の単なるお添えものであって、思考の構成要素ではない。

   つまり、新しい行動のためのプログラム(新しい習慣)を作ることが思考の基本的な働きであって、他は副産物にすぎないと述べています。

   このパースの見解によって、考える行為、すなわち、意識の働きが、かなり明確になってきたようです。

   そこで、もう一歩話をすすめます。次は動物実験です。


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