4.2 探求反射
学習本能と、それに基づく学習行為の中で、興味深いことが三つあります。
探求反射と模倣反射、遊びです。
探求反射は、別名『試行錯誤』と呼ばれており、生物進化の立場からは、模倣反射よりも古く、かなり基本的な学習行為のようです。
状況に対応するためのプログラムがない場合に、つまり未知の状況に直面した場合に、まず行動を起こしてみて、その結果を自分自身の神経組織にフィード・バックさせ、それによって、その状況に対応するためのプログラムを形成していく行為です。即ち、直接肉体を使った、試行錯誤による体験学習です。肉体を使った体験によって、プログラムを形成して行きます。
この反射については、よく研究されており、取り立てて、論じることはありません。ただ、念の為、次の2点についてだけ、述べおきます。
快楽原則と、
現実原則です。
1.快楽原則
脳の最も基本的な性質は、快楽原則です。より正確に述べれば、無興奮原則、或いは、不快回避原則です。不快な状態を、忌み嫌い、回避、逃げ回る性質を持っています。出来るだけ、ストレスのない無興奮な状態になろうとします。
空腹などによって、脳内部に、ストレスやテンションが溜まると、動物は、それを外に向かって放出しようとします。ともかく、放り捨ててしまえば、脳内部から無くなるからです。
具体的には、放出路は、外部運動器官しかありませんから、そこに向かって、何の脈絡もなく、デタラメに放出します。
その結果、デタラメな運動が発生します。
それを外から観察していると、あたかも、探求反射であるかのように見えます。
もっとも、中には、本当に、イライラして、当たり散らしているだけの行動も結構ありますが。
どう見えるかは、観察者の思い入れ次第です。
この段階では、ともかく、ストレスなどの『不快』の原因を、外に向かって、放り捨てることだけが目的です。その放出先は、問いません。
一週間の仕事のストレスを、週末の趣味で、発散するのと、同じです。趣味は、人それぞれです。
やけ酒を飲んで憂さを晴らしたり、買い物で憂さを晴したりするのも、その方法です。このような憂さ晴らしは、結構、多く目につきます。
2.現実原則
話がややこしくなるのは、現実原則に直面した時です。この時、始めて、因果関係の現実に直面します。
仕事のストレスのように、溜まるまでに、一週間、掛かるような『不快』なら、問題ありません。趣味の散歩で発散させれば、充分です。ストレスの原因と、発散の間に、直接の因果関係はありません。
ところが、空腹のように、常に、強い危険信号が継続的に発生してしまう場合、水を飲んで、空腹を紛らしても、直ぐに、空腹感に苛まれます。どんどん溜まってしまい、放出が間に合いません。
このような場合、ストレスの発生源を根絶するような行動を取る必要があります。即ち、ストレスの運動器官に向かっての放出路が、ストレスの発生源を根絶するような方向に向かう必要があります。くさい臭いは、元から断たなければ、根本的解決には繋がりません。
早い話が、食事する行動です。キツネの場合は、獲物を捕まえる行動です。獲物を捕まえて食べれば、空腹は癒されますから、不快から解放されます。
『不快』を、外に向かって、放り捨てても、くさい臭いを、元から断っても、どちらでも、不快から解放されます。
ここに始めて、『腹が減ったから、獲物を捕まえる。』という
因果関係に基づいた学習行動が成立します。
脳は怠け者です。優等生ではありません。『
腹が減ったから、獲物を捕まえる。』のは当たり前と思われるかもしれませんが、むしろ、これは珍しい例外的なことです。
『尻に火が着いた。』から、嫌々、渋々、不本意ながら、追い立てられるように、現実と向き合っているだけです。火が着くほどでもなければ、外に放り捨てて終わりです。
入ってきた信号は、右から左に流さなければいけませんが、何も入ってこなければ、何もする必要はありません。『空腹』という厳しく耐え難い罰を受けないなら、何もする必要はありません。罰を受けるから、現実に目を向けた学習が必要になります。
『脳は学習するものだ。』という先入観を捨て、『
脳は不快から逃げている。』だけかもしれない可能性にも、目を向けてみる必要がありそうです。その結果が、結果的に、学習に繋がっているだけかもしれません。
纏めると、脳が不快から逃げる手段は、論理的には、次の2通りが選択可能です。
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方法1: |
どうでもいいから、外に放り捨てる。 |
(快楽原則) |
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方法2: |
くさい臭いを、元から断つ。 |
(現実原則) |
注)実は、人間の心には、不快から逃げる第3の方法が、存在しています。それは夢過程です。しかし、この過程についてお話するには、新しい知識が必要になるので、後で、もう一度、繰り返します。
3.模倣反射や思考学習は、探求反射の一種
なお、これは余談になりますが、この様な短い文章のために、わざわざ一つの項目を設けたのは、これが、次ぎに述べる模倣反射や、意識器官を使った思考学習に於て、非常に重要な役割を演じているからです。
模倣反射も、思考学習も、この探求反射を土台とした行為です。つまり、模倣反射も、思考学習も、探求反射の一種でしかないからです。その理由は、これらの一連の話の最後に、明らかとなります。